2025/05/03

Taiwan Today

観光

大人気!ワンコインの台湾電力アイス、生みの親はコンクリート?

2020/07/03
台湾電力はほぼ全ての発電所でアイスキャンディーを販売している。夏季限定ながら「なつかしのアイスキャンディー」は安くて大きいと大人気だ。写真は蘭陽発電所のアイスキャンディー。(自由時報より)
台湾で猛暑が続く中、台湾北部・新北市烏来区の山中にある桂山発電所はこのところ大勢の人で市場のようににぎわっている。集まる人々のお目当ては意外にもアイスキャンディー。その人気ぶりは品切れになるほどだという。実は台湾にある発電所の多くはアイスキャンディーを売っており、本業よりもアイスキャンディーの方が有名なところまであるのだ。
 
「弁当は台湾鉄道のだ。アイスキャンディーなら台湾電力っていうようにね」。こんな風に話される台湾電力のアイスキャンディーを求め、端午の節句の連休(今年は6/25~6/28の4連休だった)には桂山発電所に大勢の人が集まった。中にはその場で食べるのに飽きたらず、袋に入れて家に持ち帰る人、さらには大型のクーラーボックス(保冷箱)を持参して大量に「仕入れ」、山を下りて売りさばく人までいる。発電所では整理券を配ってアイスキャンディーを売る盛況ぶりだ。
 
台湾電力の本業は当然発電と電力の販売。このためアイスキャンディーを売ることにはどうしても「本業に励んでいない」というマイナスイメージがある。しかしそれでもコイン1つで買える「なつかしのアイスキャンディー」は大人気だ。台湾電力の発電所はほぼ全てでアイスキャンディーを売っている。桂山発電所を例にとると、種類はあずき、ピーナッツ、タロイモ、パイナップル、パッションフルーツなどで1本10台湾元(約36日本円)。「清冰」(水と砂糖、バナナエッセンスで作られ、特に具の入っていないアイスキャンディー)は7台湾元(約25日本円)だ。安くて大きいアイスキャンディーは大手メーカーの製品より歓迎されている。
 
林口発電所(台湾北部・新北市)のアイスキャンディーのうち一番人気はピーナッツ味。また、離島・澎湖にある尖山発電所独特の製品は澎湖の特産品であるサボテンを使ったアイスキャンディーだ。台湾北東部・宜蘭県にある蘭陽発電所は地元の名産である「金棗」(キンカンの一種)を使ったアイスキャンディーを売っている。なお、発電所製のアイスキャンディーはほぼ全て夏季限定だという。
 
台湾電力公司による製氷には歴史がある。ではなぜ台湾電力がアイスキャンディーを売るようになったのか。台湾電力のベテラン社員で今では協和発電所(台湾北部・基隆市)のマネージャーを務める林溥言さんはその理由について、「発電所と大きな関係がある」と話す。例えば、協和発電所は1972年に建設が始まった。工事には大量のセメントが必要だ。協和発電所にある3本の巨大な煙突は分厚い構造で、厚さは約120㎝から150㎝。煙突は上からセメントを流し込んで作られるが、分厚いため外側が乾いても内側は湿ったままだという。しかし自然に乾燥するのを待っていては亀裂が入ってしまう。どうしても速く乾かさねばならないのだ。
 
一方、セメントは混ぜ合わせる過程で熱を発するため速く乾燥させるのが難しい。そこである人が、コンクリートに氷を加えて温度を下げることを考え出した。発電所には大小さまざまな製氷設備が導入され、セメントを撹拌、混ぜ合わせる際に大量の氷を投入するようになった。その効果は温度を下げられること、そして冷める時に材料が縮んで建材がより引き締まったものとなり、強度を高められることである。
 
ダムの構造物は煙突よりさらに大きい。ダムや火力発電所を山の上に建設する場合、製氷設備も運び上げる必要がある。発電所の基礎部分、煙突、堤防は非常に分厚く作られ、その建設にもかなりの時間がかかるが建設が終われば製氷設備は用済みとなる。だからと言ってこれらの設備を別の発電所に運んで使っても非効率。また捨ててしまうのももったいない。そこで各発電所ではこれらの設備を使ってアイスキャンディーを作るようになったというわけ。
 
桂山発電所ではダムの完成後に製氷設備を「買い戻す」ことに。便宜上、価格は1台湾元(約3.6日本円)だった。そして台湾電力の職員による福利会が「桂山氷菓子部」を設立、退勤後の時間を使ってアイスキャンディーを作り始めたのだ。当初の販売対象は職員だけだったがその後近隣住民もやって来るようになり、今では噂が広まって烏来を訪れる行楽客までアイスキャンディー目当てに発電所を目指すようになった。
 
桂山発電所のアイスキャンディーは異なる部署が当番制で作っている。材料と製造過程には全て標準作業手続きが定められている。具が入っていて味のついたアイスキャンディーは1本10台湾元。「清冰」は1本7台湾元で薄利多売。消費者からのe-mailで最も多いクレームは「『清冰』が品切れで買えない」こと。多くの人々はとりわけこの「なつかしのアイスキャンディー」である「清冰」が好きなのだ。
 
実は「清冰」を作る方が具の入ったものを作るより面倒。「清冰」は固まる寸前にならなければアイススティック(棒)を入れられず、「清冰」を1本作る間に具入りのアイスキャンディーなら2本作ることが出来るという。「氷菓子部」が作ったアイスキャンディーを「仕入れ」、「桂山アイスキャンディー」と銘打って倍の値段で販売している人を見かけた台湾電力の職員たちは、泣くに泣けず笑うに笑えずと戸惑っているという。
 
 

ランキング

新着